パリ生活 ①

きっかけはアメリカのニューイングランド

この6年間、私は毎年夏にはパリを訪れていますが、なぜパリになったのか、そのきっかけは米国のニューイングランド地方を訪れたことからでした。

20代に1年間一人でヨーロッパを旅した以外、私の海外滞在はほとんどがアメリカ。特に国際交流団体STEPを設立し親善大使を米国の学校に派遣していた頃は、私にとってアメリカが親しみを感じる第一の外国だったのですが、その気持ちに変化が生じたのは2010年に東海岸を3か月かけて回った時でした。それまでいろいろな州を訪れ1か月以上滞在した街も結構あったのに、ボストンを含むニューイングランド地方にはそれまでと異なる印象を抱きました。自然に恵まれた地域が醸し出す雰囲気に加え、伝統文化も含め人生で何を大切にするかなどの考え方も自分に近いと感じる人々が多く、何とも居心地が良いのです。それまでもアメリカは好きでしたが、ニューイングランドは私にとって別格の地域になりました。

「ニューイングランドがそれほど気に入ったのなら、オールドイングランドにも行くべき」と私以上に世界を一人で旅している娘にアドバイスされ、私は2014年にイギリスのコッツウオルズ地方、ケンブリッジ、オックスフォードに加えて、ロンドン、パリに各40日間滞在する旅を企画しました。遠い昔の20代に数か月滞在した眩しい程華やかだったパリ。その記憶が鮮明だったので、あの美しい街を再度見てみたいと思ったのです。しかし娘からは「今は東京の青山の方がよほどおしゃれな人たちが多いのであまり期待しないよう」事前に忠告されました。

私は海外の人と友好を深める草の根交流の会SERVAS(サーバス)に入会しているので、海外に出かけても現地の会員宅に宿泊や訪問が可能です。日本文化を紹介しながら現地の人々と交流するのが好きなので、喜ばれるものとして茶道をすることが多く、着物や盆略点前の茶道具など持参する荷物が増えますが、ただおしゃべり目的で訪問するよりずっと丁重に扱われ、又茶道からお互いの文化やその他の話題に発展するので荷物の重さは苦になりません。

海外を放浪した20代でもロンドンには立ち寄っていましたが、8月なのに寒かったり天気がどんよりしていたりでどちらかというと暗いイメージでした。しかし長い年を経て訪れたイギリスは私にとって快適な国でした。コッツウオルズの穏やかな風景、ケンブリッジやオックスフォードで滞在させて頂いたSERVAS会員の女性達とは初対面から親友と感じるほど仲良くなり、ロンドンで着物を着て歩けば、通りや美術館など至る所でにこやかに声をかけられなどすべての流れがスムーズでした。私にとってロンドンは溶け込め易いと感じられた街で、2階建てのバスに乗って市内を眺めていても、時々ふと東京にいるような錯覚を覚えました。

それに対しパリの方は、強烈だった古き良きイメージが一瞬に打ち砕かれました。あの頃、自分なりにいくらおしゃれをしても道行く人たちがあまりにも素敵で、スーパーに行くのさえ気後れしてしまうほどだったのに、おしゃれな通りとして有名なシャンゼリゼさえ道を間違えたかと何度も通り名を確認するほど様変わりしていました。Tシャツにビーチサンダルの多くの中国人観光客を始め、ほとんどが気楽な恰好です。物乞いの多さもロンドンの比ではありません。着物を着て歩いても、声をかけてくるどころか目を留める人すらいません。英語で道を尋ねると、英語が話せないのか、答えたくないのか、反応からは国民性がつかめません。それでも日々パリを歩き回るのは楽しいことでした。 花が咲き誇る美しい公園や時代を感じる建造物が至る所にあり、ショーウインドーや店内を覗くとユニークな飾りつけや品物に目が留まります。豊かな独創性は、周囲の考えにとらわれない自由な心からくるのではないかと私には思われました。モネが住んでいたジベルニーの家を訪れた時,近くのレストランで昼食をとっていると、30年以上そこで土産店を経営されているという日本人男性が話しかけてきました。「パリはお好きですか」と尋ねられたので「自分が本当に自由であると感じられる街なので好きです」と答えると「その自由さに慣れなくて帰国したいと思う日本人が多いのですよ」と言われ印象的でした。 

振り返ってみると、1年間ヨーロッパを旅していた20代の頃、私はフランスには約半年間、そのうち3~4か月はパリにいたのでした。パリが魅力だったのは、おしゃれな街というだけでなく自由な心でいられた点も大きかったようです。あの頃パリで日本人に出会うと「パリでは誰でも、八百屋のおかみさんすら政治のことでも何でも自分の考えをしっかり持っているね」と話題になりました。当時日本語ですら自分の考えをまともに言えなかった私には「人は人、私は私」と周囲に気兼ねなく自分の意見を言うパリの人達は羨ましくさえ思えたものでした。議論好きな国民性は時が経っても健在のようで、パリでSERVAS会員の女性達と話をした際には、私も幾分自己主張が強くなるのを感じました。

帰国日が近づいた時、今後長期滞在するとしたらパリとロンドンのどちらだろうかと考えました。言葉の問題もなく文句なしにリラックスできたのはロンドンです。パリでは英語が仕事に必須である人以外、流ちょうに英語を話す人は本当に少ないので、もしパリに長期滞在するのなら自分がフランス語を学ぶ必要があります。結局私はパリを選んだのですが、最大の決め手は、最初からすんなり溶け込めたと感じられる街にいるより、ミステリアスな面がいろいろある街に長期滞在した方が学ぶ点が多々あり、それは今後の自分の人生をさらに面白くさせるだろうと思ったからでした。ただ物価の高いパリで数か月暮らすのは経済的に大変です。それが帰国直前に地下鉄でたまたま傍らにいたパリジェンヌのローレンスと二言三言会話を交わしたことから、思いもかけない展開となり、その翌年から私は立地の良いアパートに信じられない程の家賃で暮らせるようになったのでした。その話は別にします。


SERVAS JAPAN

 https://www.servas-japan.org/img/servas-guide-items.pdf


パリの街角フォト

デパートの食器売り場の壁(売られている食器が貼られている)
ざるで飾り付けた入り口
読み古した本を利用した飾り物
自転車を造花で飾り立てたカフェ
今年のパリは猛暑です。
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