「英語で日本文化紹介」の効用(2)

趣味(興味の対象)が広がる-布地

裏表の色が異なるマンチェスターの古布

茶道具でないものをお茶の道具として使うことを“見立て”と言い、それには特に決まったルールはないので茶碗や茶入れに使えそうなボウルや小瓶を探すのが旅の楽しみになりましたが、近頃ではお仕覆(しふく)や古帛紗(こぶくさ)用の布を探すことにも興味があります。

お仕覆とは抹茶の茶入れを入れておく袋。古帛紗は濃茶を飲んだり、道具を拝見したり、運んだりする時に、茶碗や道具に添えて使う15センチ四方の布です。 古帛紗を使わない流派もありますが、私が所属する裏千家茶道では必須。旅先で購入した小瓶が増えるにつれ、その形や色、雰囲気に合ったお仕覆が欲しくなり、布を探すのなら古帛紗も思い出付きの自分好みのものにしたら楽しいだろうと考えるようになったのです。

きっかけは東京の古物商の店内で見つけた一枚の古い布。心惹かれて触っていると店主の女性が「イギリスのマンチェスターの布ですよ」と声をかけてきました。「こうした布をお茶のお仕覆にされる方はいらっしゃいますか」と尋ねると「ええ、いらっしゃいますよ」と迷いのない即答。そこで2018年の夏はパリからエジンバラに行く途中でマンチェスターに立ち寄りました。マンチェスターはイギリス産業革命発祥の地であり綿工業で栄えた街。現地に行けば古物商で見つけたようなお気に入りの布にいろいろ出逢えるだろうと単純に思い込んでしまったのです。

マンチェスターの古布でお仕覆

しかしマンチェスターが織物業で栄えたのは18~19世紀のこと。実際に現地を訪れると、布を売っている店は見当たりませんでした。マンチェスターに限らず、イギリスで布を売っている店を探すのは非常に難しいと行く先々で感じ始めていると、ケンブリッジでたまたま入ったセカンドハンドの店で1970代のものと店主が言う布を見つけました。布の端にJohn Lewisとプリントされていたことから、イギリス国内にチェーン展開しているインテリア、雑貨の大型デパートのジョン・ルイスが手掛けた布と分かり、どこのJohn Lewisにも布売り場があると店主が教えてくれました。

そこで数か所のジョン・ルイスを訪れましたが、いずれの布売り場も面積が広く沢山の布地が反物形式で見やすいように並べられていました。眺めていると楽しいのですが選ぶとなると大変です。お仕覆も古帛紗もそれを製作するのに使用する布地は少ないので、完成品となった時に見える部分がどのようになるのか頭の中でイメージしないといけないからです。欲しいのはほんの端切れ程度でしたが、購入できるのは最低50センチの長さから、ということでやっと選んだ一枚は和風テイストが感じられるものになりました。女性店員は大きなはさみで布を裁ち、丁寧に畳んで柔らかな白い紙で包んでからデパートの袋に入れてくれました。ロンドンのビクトリア&アルバート博物館のお土産売り場で英国の伝統的な図柄が小切れとなって売られているのを見つけた時は、小躍りしたい心境でした。

意外だったのはパリで、布探しに興味がない時には何度訪れても気が付かなかったのに、モンマルトルの一角には布地専門店が軒を連ねて何軒もあったのです。 ビクトリア&アルバート博物館のように小切れだけでも売られています。「うちの品物の大半はリヨンで作っているのよ」と一軒の店の店主が誇らしげに説明してくれました。リヨンは絹織物の産地として栄えた絹の街。布探しを続けていけば産地の特色も分かってさらに面白くなるのでしょう。

自分の好みで選んだ布を友人がお仕覆と古帛紗に順次仕上げてくれています。日々の生活の中で自分用にお茶を点てる時間をなるべくもつようにしていますが、そんな折にそうしたお仕覆や古帛紗が目に入ると、探せば楽しいことが身近にいろいろあるのを実感します。海外での布地探しから入りましたが、日本にもいろいろユニークな布があるので、今後は常にアンテナを張って国内での布地探しも楽しんでいこうと思います。「英語で日本文化紹介」をキーワードに私の世界はこうしてどんどん広がっていくのです。

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