茶道は大人気

当初、米国の学校で日本文化紹介をしている親善大使から送られてくる活動報告を読んでいて「本当かな」と信じられない内容がありました。折り紙に並んで人気がある授業として茶道が挙がっていたのです。

ほとんどの親善大使は渡米前に、茶道の得意な親善大使から3回ほど盆略点前の指導を受け、あとは自宅で練習していきなり現地で大勢の前で披露するという状況でした。生徒達の反応を私は心配していたのですが、報告書には誰もが茶道は大成功と書いてきたのでした。

10代の頃、生け花を教えていた母の友人の中にお茶の先生がいらして、我が家で母やお弟子さんに教えて下さった時期があり、私は2年程茶道を習ったのですが、ただお茶を飲むのになぜ回りくどい所作をあれこれするのだろうかと、疑問は抱いても興味が深まることはありませんでした。遠い昔の記憶から、茶道がアメリカの生徒達に喜ばれるというのが想像できず、自分の目で確かめたいと考えました。

そこで訪問したのはニューヨーク州北部のエルマイラ市にある、幼稚園から中学2年生まで約600名ほどの生徒が学ぶ学校。簡単な手前もすっかり忘れていたので、渡米前にビデオで盆略点前のところだけを繰り返し見て、それと同時に茶道に関する説明内容もまとめて暗記しました。着物に関しては、子供の頃、着物姿の母を日常的に見ていたにも関わらず、全く着方が分からなかったので、レンタルの2部式着物を持参しました。

学校での滞在は2週間。多くの先生が茶道を希望したので、数種類の日本文化の授業と組み合わせながら、お茶は50~60名の生徒に一堂に集まってもらい、2クラス合同形式。お茶碗1つ、茶筅、茶巾、茶杓、棗、抹茶、お盆などの必要なものは日本から持参して、先生にはお茶碗で、生徒たちはお茶碗で点てた抹茶を紙コップに分けて飲んでもらいました。お茶を頂く前のお菓子は金平糖。きれいな色と可愛らしい形で子供達は大喜び。板につかない着こなしとぎこちないお点前であっても、上手な人と比較されることがないので、40分の茶道クラスが終わると、先生や生徒達からは良いコメントばかりの感想文が届きました。

親善大使の報告書通り、茶道は本当に大人気だったのです。その時私が感じたのは、「嬉しい」というより「本物ではないものを見せている」申し訳なさでした。着物をきちんと着て流れるような所作でお茶を紹介できるようにしたい、そんな思いが強くなりました。そしてその思いが、のちに茶道にのめりこむ原点になったのですが、実際に茶道に夢中になるのは10数年後で、予想もしない思いがけない状況に自分が置かれた時でした。

二部式着物で初めての茶道紹介
着付けや茶道に慣れた頃、幼稚園児とお茶を楽しむ
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