異文化交流で自国の再発見

外国の人に日本文化を紹介すると、その反応から互いの文化、考え方の違いに気づくことが多々あります。例えば昔話をアメリカの学校で紹介した場合、「日本のお話はなんで悲しいものが多いの?」とよく聞かれました。 何気なくやっていた「浦島太郎」「鶴の恩返し」「竹取物語」は確かに最後が可哀想ですね。 特にアメリカではハッピーエンドのお話が好きなので、疑問に感じるようです。 また、この物語は何を言いたいのか、テーマは何か、という質問は先生方からよく出ます。そうした観点から見ると「桃太郎」や「笠地蔵」は分かり易くアメリカでは好評でした。

 「ごんぎつね」は日本人の好きなお話。でも銃が絡む事件が多発しているアメリカでは、地域によっては家族や知り合いに銃による犠牲者がいたりして、先生から「その話はやめて欲しい」と言われたプログラム参加者がいました。 「泣いた赤鬼」は人間たちと仲良くなれた親友の赤鬼君の幸せを願って青鬼君が遠くに行ってしまうお話ですが、「どうしたら二人はこれからも仲良くいられるかな」などと言った質問をすると、今なら「スカイプを使えばよい」「メールをすればいいんだよ」といったIT技術を駆使する答えが返ってくることでしょう。

記憶に残っているのは、フロリダ州で桃太郎の昔話をしようとした人が、先生から「裸はいけないな。おむつを付けてくれ」と注意され授業前に桃から飛び出す桃太郎におむつを描き加えたことでした。これは一校だけのエピソードですが、こんなことを気にする先生もいらっしゃるのですね。

アメリカにはない静かな文化として人気が高いのが茶道。その雰囲気は独特なものに映るようです。 ですから茶道を紹介する時は、事前に「おしゃべりをしない」ことをしっかり約束させてから始めると生徒たちにとっても異文化体験としての印象が強まります。

書道は墨で衣類や机が汚れたりして、先生方からさほど歓迎されない授業でした。「さあ、書いて下さい」と始めてしまったら、単なる騒がしいお絵描き授業と同じで、敢えてやってもらいたいとは思わないでしょうね。 そこで実際に私が書道の授業をした時は、最初に心を無にするような導入を取り入れました。「目を閉じて」「深呼吸して」「息を吐いて」を何度か繰り返させるとクラスはシーンとなります。 「目を開けて」「文字に集中して下さい。 静かに書きましょう」 静寂な時間が続きました。普段の騒がしい生徒達からは信じられないほどの風景に先生方もびっくり。書道は一気に大好評の日本文化に駆け上がったのでした。 こうした体験を繰り返す中で、私自身も自国の伝統文化の素晴らしさを再認識していくのです。

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