旅だより 〜チュニジア

2019年、12月26日の午後3時半に東京の羽田を発ちフランクフルトで乗り換えてチュニジアの首都チュニスに着いたのは現地時間で日付が変わった夜中の12時半だった。

そこからタクシーで中心街の観光名所でもあるフランス門の正面にあるホテルへ直行。 旧市街メディナの入り口ともなる立地だ。そのホテルを拠点に私は1月4日の未明までチュニジアで過ごしていた。

チュニジアは北アフリカにある小さな国で隣国はアルジェリアとリビア。地中海にも面していて、対岸の北東はイタリアだ。紀元前の遠い昔、フェニキア人が築いた都市国家のカルタゴの遺跡は現在チュニジアの世界文化遺産になっている。イスラムの国なので朝6時から夜の8時まで日に5回お祈りの言葉が拡声器で町中に流される。深い眠りについていてもその大音響で目が覚めるので私には目覚ましになった。

地元の人はとてもフレンドリィ。 歩いていると、小さな子供から大人までそれこそ老若男女の人たちが「ニイハオ」とやたら声を掛けてくる。 最初は中国人に間違えられているのかと思ったが、そうではなく、ニイハオはアジア人に共通する挨拶言葉と信じているようだった。若者の一群がすれ違った時、「ニイハオ」と言いながらもその一人が「ところでニイハオってどんな意味?」と尋ねてきたので「Hello の中国語で日本語ではこんにちは、と言うの」と教えてあげた。

「ニイハオ」と言われた時に「こんにちは」と返すとオウム返しのように「こんにちは」と言ってくる人たちも多い。アジアの人が珍しいのか、興味津々なのだろう。スーパーで買い物をしていると若い女性から「自撮りのスマホ写真に入って下さい」と言われたり、込み合った市場で突然に中年の女性から満面の笑みで自己紹介され、「アンシャンテ(どうぞよろしくのフランス語)」と手を差し出されたこともあった。嬉しそうに手を振る小さな子供たちもいて、歩いていても楽しい。

アジア人と分かった上に日本人と見分けて声を掛けてくるのは土産物店の人たちだ。「Japanese are good people.」と必ず褒めて非常に愛想がいい。いろいろ品物を勧めてくるが、ほとんどの品物に値札が提示されていないから買う側には不安が募る。恐らくかなり吹っ掛けた金額を言ってくるだろうと思うからだ。「高くない」と連発する中で、黙って商品を見ていると「友達プライズ」とかと「貧乏プライス」とか表現が変わってくる。ある店では立ち去ろうとした時に店主が背後から「タダ~」と叫んでいた。

さして金額交渉もせずにチャイグラスを2つ買った時、店主が「日本人は大歓迎だけど、中国人が入ってくると頭が痛くなるよ」と私にぼやいた。「こちらが20ディナールと言っているのに1ディナールにしろ、って言ってくるんだぜ」確かに日本人はそこでは値切ろうとは考えないし、最初に50ディナールと言われ、日本人は好きだから友達プライスで35ディナールにするよ、とニコニコ言われたら買ってしまう人も多いに違いない。土産店に取ったら日本人は本当に良いお客さんなのだろう。

その店主が扱っているガラス製品を日本で販売している日本女性がいるそうで、彼女とは15年来の友達だと話していた。 彼女は数年チュニスに滞在して、アラビア語、チュニジア語、フランス語を語学学校で習得したそうだ。チュニジアの公用語はアラビア語だが、フランス語を話せる人も多く、英語はほとんど通じない。 物価が安くフレンドリーな国民のチュニジアでフランス語を学ぶのも楽しいだろうと感じた。

チュニジア名物の松の実入りのミントティ

チュニスでは大みそかに花火が打ち上げられることも、新年だからといって街の雰囲気が変わることもなかった。テレビで新年を迎える世界の大都市の様子を見ることもなく帰国したら、年賀状は届いているものの、気持ちの中で新しい年が明けたという実感が全く湧いてこなかった。それは自分にとって全く予想もしなかった初めての経験であった。

*ディナール  イスラム世界のお金の単位。 現在はチュニジア、ヨルダン、イラクなどで使われている。 現在、1チュニジアディナールは40円弱

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